奄美大島で見つけたこと

~風歌の小さな物語〜

 寒さの中に春の気配を感じる3月のはじめ、私は知らない土地で、今日初めて会う人との出会いに不安を抱きながらも、胸を膨らませ東京から奄美大島へ向かった。空港に迎えに来てくださった主催者のヒロさんは、そんな不安を包み込むようにあたたかく迎えてくださった。その夜、サキバル集落で出会った皆さんも初めて会う私に笑顔でお話ししてくださった。そのおかげで、当初抱いていた不安はすぐに和らいでいった。「話しかけたら答えてくれる、自分の思いを言葉にして届けたものが受け取ってもらえる」という安心感。この日、私は皆さんとの会話を心置きなく楽しめたのだと思う。言葉と出会いと暮らしを大切に思う奄美大島での生活がはじまった。

幸せだと素直に思っていいのだ|人をつなぐおすそ分け

 朝、集落のスピーカーからラジオ体操が流れる。道沿いの歩道に出る。おなじように家から出てきたサキバル集落の皆さんとあいさつを交わし、ラジオ体操をする。その後、生まれた会話の中で「ああそうだ、これを持って行って」と野菜や果物をいただいた。
 ほかにも、海でとれた貝やイカ、料理まで様々な人がたくさんのおすそ分けをしてくださった。サキバル集落の皆さんは、ただ皆が誰かの喜ぶ姿を願い、おくり物をし、幸せを分け合いながら、ひととの会話、関わりの中に親しみを感じているのではないか。いろんな食べ物を分けてもらうたびに、いただいたときの幸せ、それを食べたときの幸せだけでなく、それ以上の幸せを与えていただいたと強く思った。いただいたもので、今日の献立が決まるときの心のときめき。きっとそれは、私の生活のなかに誰かが確かに存在して、影響を与えてくれているというつながりが実感できたからかもしれない。サキバル集落の皆さんは自然の恵み、食べ物、交流することで、共につながりあい、生きているのだと実感した。

 本当の豊かさとは、このような人と人とのつながりによって生まれる丁寧であたたかな暮らしのなのではないか。サキバル集落の皆さんが私たちも輪の中に入れるようなあり方でいてくれるから、私はここにいていいのだと。同じ場所で、同じ時間を過ごせて幸せだと素直に思っていいのだと感じさせてくれた。サキバル集落の人たちは島の外から来た私にもあたたかな場所をつくってくださる人たちだった。

今私ができることからはじめなくてはならない|海

 奄美市都笠利町の須野崎原(サキバル)集落では、毎月第一日曜を「海の日」と決め、住民たちが集落内にある海岸の漂着ごみを拾う。歩きながらごみを拾い、健康づくりと海岸をきれいにするという取り組みを行う日である。

 朝日が昇り、太陽の光が空を彩り、海を照らし始める時間に私たちは防波堤においてある参加者名簿に名前を記入し、ビニール袋を受け取り、ごみ拾いを始めた。波の音を聞き、朝日に照らされ、海風を感じながら。とても気持ちよかった。初めて奄美大島の海を見たとき、(こんなにも美しい海や砂浜に、本当にごみはあるのだろうか)と思っていた。しかし実際には、一見きれいな砂浜も、砂浜を歩いてみると様々なごみが流れ着いていることがわかった。このきれいな海はここに住む人たちの努力や想いによって保たれているのだということを知った。

 地元の同世代の方に、ビーチクリーンをした海とは異なる、漁港の海の方へ連れて行ったいただく機会があった。「昔、ビーチクリーンをしたんだけどな。」と、その方はいう。水は青く透き通っていてきれいに見えるものの、カラフルなブイが浜辺に打ち上げられ、桟橋の周りには中国語や韓国語が使用されたペットボトル、くつなど、様々なごみが浮いていた。観光するだけでは見ることのなかったであろう光景。私が思い描いていた奄美大島の海とは異なることに驚いた。集落や海岸によって、浜辺のごみの状態は大きく異なるのだそう。青くきれいに見える海も、一昔前ほどきれいではなくなってしまったのだという。私たちが排出するごみが海を汚していること、海洋プラスチックの問題が確かに目の前にあることを実感した。今私ができることからはじめなくてはならないと強く思った。

これからを生きていく上で、大切な手がかり|村・留学を振り返って

 今までは、自然のことも、環境のことも、社会のことについても、机上で勉強するだけで、何か行動したいと思っても、何もできずにいる自分を実感するだけだった。しかし、自分たちの島、海を、生活の一部として考え、自然と共に暮らしている奄美大島の皆さんと接するうちに、確かに存在する問題を再認識し、いつまでも眺めていられるきれいな海、たくさんの生き物が生きているこの自然、文化的な生活を守る取り組みをしたいという気持ちが素直に感じられるようになった。自分はなにもできなくはない。当たり前のことであるはずなのに、自分が行動することに対してブレーキをかけていた。このことに気づけたことは小さいけれど大切な一歩だったのではないかと思う。

 私はこれからどうやって生きて、暮らしていくのだろうか。わからないけど、わからないなりに学び続けて選択していきたい。9日間で出逢った奄美大島の皆さんの今までのこと、今考えていることを聞く中で、皆さんが好きなことや生き方、暮らし、奄美大島の自然に対して深く考え、信念を持って生活していることがわかった。このことは私がこれから生きていく上で、大切な手がかりになるのではないかと思う。

 たくさんの人や物に対して、やさしくつよくありたいな思えた9日間。この経験はこれから生きていく上で私に強く寄り添ってくれるだろう。


2023年

筆者|明治大学 情報コミュニケーション学部 2年 村越 風歌
編集|松榮 秀士

村・留学に参加したきっかけ

視野を広げ、環境と社会、自分自身を結びつけて考えるきっかけを得たいと参加を決意。過去に参加した社会人の従姉妹から村・留学の話を聞いて調べるうち、自然と人がつながる奄美大島に惹かれる。

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