~まゆの小さな物語~
【食と自然】
1日目の夜、みんなで鍋を作った。料理をするのは好きだから、私は率先して料理の手伝いをした。いつも家でそうするように野菜を切って、鍋に放り込む。そんな、いつもの動作をしていたそんな時、隣にいた主催者の杉田英治さんがふと、「大切なのは野菜の声をきくことなんだよ」と教えてくれた。一瞬なんのことかわからなかった。けれどその時、私が大切にしたかった、そして忘れていた何かを思い出した気がした。野菜が収穫されるまでの過程を想像して、込められている想いに触れること。美味しい野菜を食べることができるという当たり前ではない状況に感謝すること。そんな野菜で作った鍋はびっくりするくらいおいしかった。そして、 「ありがとうございます」 自然とその言葉が浮かんできた。 みんなで食卓を囲んで、みんなが笑顔になる。私は幸せな気持ちでいっぱいになった。「五ヶ瀬では野菜を自分たちのために作る。 大量には作らないから、買う時も食べる時も大切にする。 作っている人と食べている人が近いから、より大切にできるんだ」と、英治さんは言う。食べものを常に大切にするからこそ、こんなにもおいしい食事ができる。幸せで満たされるからこそ、食べものだけでなく、これを生み出した人と自然にも感謝して日々を過ごすことができるんだ。 生きる力とはまず、食べものと人と自然を大切にし、感謝する心を持つことなんだと身をもって感じた。食べものにあふれた都会では、なかなか感じることが出来ないことだと思った。
【好きなもの】
五ヶ瀬の特産品のかりんとうを製造しているバーバクラブに行った。バーバクラブのお母さんたちは、急遽来たにもかかわらず、私たちを温かく迎えてくれた。お店の中は端正に整えられており、品物も豊富にあった。だからこそ、バーバクラブのお母さんの話はものすごく驚いた。 「食べ物を売りはじめてから5~6年くらいは全然売れなくてお金にならなかったんだよね。」 「かりんとうを完成させるまでなかなかちょうどいい長さや厚さが見つからなくて、mm幅での研究が続いたから、半年くらいかかってしまったんだよ。」 「働き手がお年寄りばかりなのに、朝からずっと働く日が多くなっちゃって大変だったんだよ。」 お母さんたちは辛くて大変だった過去も終始笑顔で話していた。 その後も話を聞いていると、あることに気がついた。
「幸せ」「感謝」「つながり」この言葉をお母さんは何度も何度も言っていた。 私は製菓の学校を卒業し、ケーキ屋さんに勤めた経験もあるため、その苦労が過去の私と少し重なった。私はその過去もあり、パティシエ以外の仕事に就いた方がいいのかもしれないと悩んでいた。そのため、大変な経験をしたのにも関わらず、楽しそうなお母さんたちに疑問を持った。お菓子を作るのが本当に好きなんだな。心からそう感じた。苦労もするし大変なこともあるけど、喜ぶ人たちの顔を見るのが幸せ。それはまさに私がパティシエになろうと思ったきっかけだった。お母さんたちはその素晴らしさを再度私に教えてくれた。村・留学ではたくさんお菓子作りをさせてもらった。どれも作るのが楽しくて、みんなの「おいしい」をたくさん聞けて幸せな時間だった。やっぱり私はお菓子作りが大好きだ。 パティシエやめたくないな。 そう強く思った。
【違いを認めること】
2日目の朝、祇園神社に行った。 鳥居を目の前にして、空気がスッと変わったのが一瞬にして分かった。 「いらっしゃい」 そう言われた気がした。祇園神社は、遠くの都会から来た私たちを一目見てすぐに受け入れてくれた。なぜかそう感じ、とても安心したのがすごく記憶に残っている。受け入れてくれたのは神社だけではなかった。村・留学中は、協力してコミュニケーションをたくさんとって取り組む機会が多かった。私は浮き彫りになった自分の短所に何度も何度も悩ませられた。だけど、何があっても五ヶ瀬の人たちはいつも優しかった。全員で助け合い、楽しくプログラムを行えた。 得意なことでみんなを笑顔にできた。何を言っても否定せずに聞いてくれた。優しい人たちにいつも囲まれて、人の温かさを心から知る経験がたくさんできた。どんな私でも受け入れてくれる場所があった。そして、これらは悩んだからこそ感じることができた経験だとも思った。これからは、いいことも悪いこともできるだけ全部大切にしよう。そう思えた。五ヶ瀬の激しい寒暖差と不便なことも多い大自然の中、楽しく生活するには、みんなで助け合いが大切になる。そのため、たくさんの人とのつながりがあり、強い信頼関係が成り立っている。そんな生きる力であふれるから、遠くから来た全ての人に優しくできる。五ヶ瀬の町全体がたくさんの人を認め、受け入れる力で包まれていた。 とても温かい町だった。温かいってすごく幸せだと思った。
【村留学を終えて】
たくさん笑って、ひたすら自分と向き合い続けた8泊9日間。 私は、勇気をだして飛び込んで大正解だったと自信を持って言える。1日目のリフレクションを終えて、私が感じたのは大きな不安だった。私は他の参加者と違って学生でもないし、大きな目的もない。集団での活動もどちらかといえば苦手だ。なのに、参加してしまった。他の参加者の子と比べて、違いすぎる自分の条件に大きな不安を抱えた1日目。そんな私を救ってくれたのは、自然と食べ物とたくさんの人たちだった。考え方を変えるきっかけをくれた。自分のやりたいことを日々追求する。毎日を大切に、幸せに過ごす。こんなにも輝いた人たちであふれた町で、時間を過ごせたことと、お世話になった全ての人たちには本当に感謝している。私も日々、自分が選んだ道に自信を持ち、やりたいことに全力を尽くし過ごしたい。 五ヶ瀬の人たちのような優しく温かい、キラキラした存在になりたい。
ただいまを笑顔で言う。
次、五ヶ瀬に帰る時、一番にこれをやりたい。
田中 真由 (たなかまゆ)
村·留学五ヶ瀬’22春参加者 製菓専門学校卒 フレンチトースト専門店勤務 参加したきっかけは「幸せな生活」を見つけたくて。 社会人になり、お金を多く稼いでいても、仕事に追われ辛そうな人をたくさん 見て、衝撃を受けた。 生きる力を持つ人たちから、見つけるヒントをもらいたいと思った。